司法書士・専門家の先生へ:「話は分かるのに、段取りが追えない」ことがある—遂行機能障害(前頭葉機能)と意思確認の落とし穴

遺言作成・家族信託等の面談で、本人は会話も成立していて礼儀正しく、質問にも答えているのに、

  • 「大事なこと」の優先順位がつけられない
  • 手順の話になると急に混乱する(次に何をするかが入らない)
  • 選択肢を並べるほど、返答が曖昧になる
  • その場では「はい」と言うが、後で整合しない/言うことが変わる
  • 家族が“段取り”を握り、本人は相槌だけになる

というケースがあります。

このとき周囲は「理解力はある=問題ない」と判断しがちです。
しかし臨床では、記憶や会話が保たれて見える一方で、“段取り(遂行機能)”だけが弱い状態があり得ます。

実務で厄介なのは、こうした状態があると、紛争になったとき争点が

  • 本人が本当に理解して選択したのか
  • 選択の理由づけ・優先順位が本人から出ていたのか
  • 家族が誘導していないか

といった「プロセス」へ移りやすいことです。

この記事では、司法書士の先生方が現場で使えるように、遂行機能障害が疑われる場面の見立てと、面談条件(進め方)の整え方を一般論としてまとめます。


担当医師について(背景)

私は回復期病棟で高齢者診療・認知症診療に従事し、ご本人・ご家族を交えた意思決定支援に携わっています。
臨床では、意思決定は「能力」ひとつではなく、注意・疲労・不安・環境だけでなく、**遂行機能(段取り・優先順位・切り替え)**でも大きく揺れることを前提に関わります。


1) 遂行機能障害(前頭葉機能)とは(ざっくり)

遂行機能は、簡単に言うと

  • 目的を立てる
  • 優先順位をつける
  • 手順を組み立てる
  • 途中で修正する
  • 不要な刺激を抑える

といった「段取りの力」です。

ここが弱いと、本人は“知識としては分かっている”ように見えても、選択・比較・優先順位づけの段階で崩れます。
すると、面談が「成立しているように見える」のに、核(理由・優先順位・納得の形)が残らないまま進みやすくなります。


2) 実務上の落とし穴:「理解」だけ見ていると、本人の“選好”が取り出せない

遂行機能が弱い場面では、本人がこうなりやすいです。

  • 「どれでもいい」
  • 「任せる」
  • 「先生がいいと思う方で」
  • 「家族の言うとおりで」

これを“本人の意思”として受け取って進めると、後から
「本人は比較できていなかった」「誘導だった」
という疑いが生まれやすくなります。

ポイントは、本人が悪い/家族が悪いではなく、進め方が遂行機能に合っていないことです。


3) 医師の視点:遂行機能が弱いときほど「選択肢を増やす」と崩れることがある

よかれと思って選択肢を丁寧に提示するほど、本人は疲れます。

  • 選択肢が多い
  • 条件が多い
  • 例外が多い
  • “もし〜なら”が続く

このタイプの説明は、遂行機能が弱いと破綻しやすいです。
結果として、本人は「任せる」に退避し、家族の代弁比率が上がります。


4) 先生向け:遂行機能が疑われるときの面談条件(一般論)

※鑑定ではなく、紛争予防としての段取りです。

(1) まず「今日決めること」を3点以内に絞る

  • 面談の目的を紙に書いて見える化
  • “今日のゴール”を小さくする(結論を急がない)

(2) 説明は「比較」より「分岐」を減らす

  • 選択肢を一気に並べるより、段階的に
  • “例外・条件付き”は後回しにする

(3) 理解確認は、短い言い換えで(teach-back)

  • 「分かりましたか?」より
  • 「いまの話を、先生(私)に一言で言うと?」
    を使う(短文でOK)

(4) 同席者の役割を分ける(代弁が“意思”に見えないように)

  • 家族は事実情報(財産状況、介護実態)に限定
  • 希望・優先順位は、可能な範囲で本人から引き出す構造にする
  • 本人の訂正ルート(首振り・指差し・短い選択肢)を先に作る

(5) 疲労で崩れる前提:短時間×複数回

遂行機能は疲労・不安で落ちやすいです。
30分×複数回、休憩前提の方が結果的に「本人の言葉」が出やすくなります。

(6) 最後に効くのは「プロセスが説明できる」こと

後から問われるのは、病名よりも

  • どの条件で(時間帯、同席、環境、説明の区切り)
  • どう確認したか(本人の言い換え、訂正機会)
    という説明材料です。

5) ケース例(匿名の典型):「理解はある」前提で進め、本人の優先順位が残らない

※個別事案ではなく、よくある状況の一般化です。

【状況】
会話は成立するため、家族が段取りを進める。本人は「任せる」で乗り切る。面談は円滑に見える。

【後から起きること】
別の相続人が「本人は比較できていなかったのでは」「家族が決めたのでは」と疑う。争点が、本人の選好・優先順位が“本人由来”だったかへ移る。

【ポイント】
遂行機能が弱いときは、能力論より **進め方(情報量・分岐・確認法・代弁の扱い)**で結果が変わります。


当室が担えること(司法書士の先生向け)

当室では診断・治療や鑑定、法律判断は行いません。
紛争予防の観点から、先生方の実務に接続しやすい形で **「条件整理」と「面談整理(情報整理・文書化)」**を行います。

  • 遂行機能の弱さが疑われる場面での 面談設計(情報量・分岐・確認の型)
  • 同席圧・代弁比率を含めた 条件整理
  • 後から説明可能な形での 面談整理(情報整理・文書化)

まずは「連携のご挨拶(20分・無料)」から(先生向け)

「このケース、能力の問題として扱うべきか、条件設計で安定化する余地があるか」など、初動の見立てだけでも実務は動きやすくなります。
先生向けにオンライン20分(無料)でご相談の入口をご用意しています。

司法書士・専門家の方:お問い合わせ(司法書士・専門家の方)


ご相談(対面/オンライン)

当方の対応は以下のとおりです。

  • 対面:京都・大阪近辺を中心に対応
  • オンライン:全国対応(内容により)

「まだ遺言内容が固まっていない」「何が不安なのか整理できていない」という段階でも大丈夫です。状況を伺ったうえで、進め方をご提案します。


注意

本記事は一般的な情報提供であり、医療行為(診断・治療)や法律上の個別助言を行うものではありません。個別の状況により適切な対応は変わります。

著者情報

回復期病棟で高齢者・認知症診療に従事する医師。生活に直結する意思決定支援の経験を踏まえ、相続・遺言の場面で「意思が表れる条件整理」と「面談整理(紛争予防のための情報整理)」を行う。著者情報はこちら

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