司法書士・専門家の先生へ:脳卒中後などで「分かっているのに言えない」ことがある—失語・構音障害が“意思表示の弱さ”に見える落とし穴

遺言作成・家族信託等の面談で、本人がうなずきはするのに言葉が出ず、

  • 返答が「はい/うん」中心
  • 途中から黙ってしまう
  • 理由や優先順位が引き出せない
  • 家族が“代わりに説明してしまう”

という場面があります。

このとき周囲は「認知症が進んだのでは」「意思能力がないのでは」と捉えがちです。
しかし臨床では、理解は比較的保たれているのに、“言語の出口”だけが詰まる状態が珍しくありません。

こうした状態は、手続自体を否定するものではない一方で、プロセス設計を誤ると後から

  • 「本人が理解していなかった」
  • 「家族が誘導した」

という疑いが育ちやすくなります。

この記事では、司法書士の先生方が現場で使えるように、失語・構音障害を前提にした意思確認の整え方を一般論としてまとめます。


担当医師について(背景)

私は回復期病棟で高齢者診療・認知症診療に従事し、脳卒中後の高次脳機能障害(失語・注意障害・遂行機能障害など)を含む患者さんの意思決定支援に携わっています。
臨床では「能力」だけでなく、伝達経路(聞く・理解する・言葉にする)のどこが詰まっているかを分けて考えます。


1) 失語・構音障害とは(ざっくり)

失語(しつご)

脳の損傷などで、言葉の理解や産出がうまくできなくなる状態です。
失語にも種類があり、

  • 理解が弱いタイプ
  • 理解は比較的保たれるが、言葉が出ないタイプ
  • 復唱や命名だけが弱いタイプ

など幅があります。

構音障害(こうおんしょうがい)

言葉の内容(理解や考え)というより、発声・滑舌が出しにくい状態です。
本人は「言いたいことがある」のに、口が動かない/声が出ないために、周囲からは「分かっていない」と誤解されることがあります。


2) 実務上の問題は「意思がない」ではなく、“意思表示が弱く見える条件”が揃うこと

失語・構音障害があると、面談は次の形で崩れやすくなります。

  • 本人が言語化できず、家族が代弁する
  • 本人は否定も訂正もできず、頷きが増える
  • 先生側の質問が長いと処理できず、沈黙が増える
  • Yes/No質問に偏り、**“同意に見える返事”**が量産される

結果として、後から見たときに「本人の言葉がどこにもない」状態になります。
争いになった場合、ここが弱点になり得ます。


3) 医師の視点:まず分けるべきは「理解」か「表出」か

現場では、次の切り分けが重要です。

  • 理解が入っていない(入力の問題):説明が届いていない/難聴/注意が続かない 等
  • 理解はあるが表出できない(出力の問題):失語(表出優位)/構音障害 等

この2つは、手続の設計がまったく変わります。
“理解の問題”であれば、説明の区切り・反復・視覚化が中心になります。
“表出の問題”であれば、**本人が意思を表せる別ルート(指差し、短文、選択肢の提示の仕方、時間)**が中心になります。


4) 先生向け:失語・構音障害が疑われるときの「意思確認」チェックリスト

※鑑定ではなく、紛争予防としての段取りです。

(1) 質問は短く、1テーマずつ

  • 長文説明→「分かった?」は避ける
  • 1テーマに絞って区切る(相手の処理速度に合わせる)

(2) Yes/Noの“罠”を前提にする

  • 失語があると、Yes/No自体が混乱することがあります
  • 可能なら、Yes/Noだけで完結させず、指差し・選択肢・短文で補助する

(3) 代弁は“情報提供”に留める(本人の訂正機会を作る)

家族が話すこと自体が悪いのではなく、問題は「本人が訂正できない」ことです。

  • 家族の説明→先生が短く要約→本人に確認、の流れにする
  • 訂正・不同意のルート(首振り、指差し等)を事前に決める

(4) 視覚化(紙1枚)が効く

  • 今日決めることを3点に絞って紙に書く
  • 選択肢を並べて指差しできるようにする
  • 重要語は大きく(視力・注意の問題も拾える)

(5) 時間と休憩を前提にする

失語・構音障害がある方は「話すだけで疲れる」ことがあります。

  • 30分×複数回
  • 休憩を先に宣言
    が、結果として本人の言葉(または意思表現)を引き出しやすくなります。

5) ケース例(匿名の典型):理解はあるが“言えない”→家族の代弁が強くなり、疑いが残る

【状況】
脳卒中後で言葉が出にくい本人。家族が「本人の希望」を説明し、本人は頷く。面談は成立しているように見える。

【後から起きること】
別の相続人が「本人は理解していなかったのでは」「家族が誘導したのでは」と疑う。
争点が、本人の理解ではなく “本人の言葉が残っていないこと/代弁の比率” に集まりやすくなる。

【ポイント】
このケースで効くのは、能力論というより “本人が意思を表せるルートを設計したか” です。


当室が担えること(司法書士の先生向け)

当室では診断・治療や鑑定、法律判断は行いません。
紛争予防の観点から、先生方の実務に接続しやすい形で **「条件整理」と「面談整理(情報整理・文書化)」**を行います。

  • 失語・構音障害が疑われる場合の 意思表現ルート設計(質問の区切り、視覚化、休憩、代弁の扱い)
  • 本人の言葉(または意思表現)が出やすい 面談条件の設計
  • 後から説明可能な形での 面談整理(情報整理・文書化)

まずは「連携のご挨拶(20分・無料)」から(先生向け)

「このケース、失語寄りか?理解寄りか?」「代弁をどう扱うか?」など、初動の整理だけでも設計が変わります。
先生向けにオンライン20分(無料)でご相談の入口をご用意しています。

司法書士・専門家の方:お問い合わせ(司法書士・専門家の方)


ご相談(対面/オンライン)

当方の対応は以下のとおりです。

  • 対面:京都・大阪近辺を中心に対応
  • オンライン:全国対応(内容により)

「まだ遺言内容が固まっていない」「何が不安なのか整理できていない」という段階でも大丈夫です。状況を伺ったうえで、進め方をご提案します。


注意

本記事は一般的な情報提供であり、医療行為(診断・治療)や法律上の個別助言を行うものではありません。個別の状況により適切な対応は変わります。

著者情報

回復期病棟で高齢者・認知症診療に従事する医師。生活に直結する意思決定支援の経験を踏まえ、相続・遺言の場面で「意思が表れる条件整理」と「面談整理(紛争予防のための情報整理)」を行う。著者情報はこちら

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