司法書士・専門家の先生へ:難聴・視力低下は「同意っぽい相槌」を増やす—説明が“届いていないのに進む”リスクと、面談条件の整え方

遺言作成・家族信託等の面談で、本人が穏やかにうなずき、会話も成立しているように見える一方で、

  • こちらの説明に対して 相槌は多いが、言い換えができない
  • 質問への返答が 短い(「うん」「はい」「任せる」)
  • 重要点を確認すると 前提が入っていない
  • 家族が「さっき説明しましたよね」と言うが、本人は曖昧

といった“ズレ”が出ることがあります。

このとき、周囲は「認知症が進んだのでは」「意思能力の問題では」と捉えがちです。
しかし臨床では、まず疑うべきことがあります。難聴・視力低下などの感覚入力の問題です。

感覚入力が崩れると、本人は「分からない」と言えず、場を壊さないために頷くことがあります。
この「同意っぽい反応」が積み重なると、後から

  • 説明が届いていなかったのでは
  • 誘導があったのでは(家族が代弁していないか)
  • 本人の意思が成立していなかったのでは

という疑いの温床になります。

この記事では、司法書士の先生方向けに、難聴・視力低下が絡む案件で面談の成立条件(伝達条件)をどう整えるかを一般論として整理します。


担当医師について(背景)

私は回復期病棟で高齢者診療・認知症診療に従事し、ご本人・ご家族を交えた意思決定支援に携わっています。
臨床では、意思決定は「能力」だけでなく、**情報が入る条件(聞こえ・見え・環境・疲労)**で大きく揺れることを前提に組み立てます。

遺言・信託の場面でも、ここが整わないまま進むと「疑い」が育ちやすくなります。


1) 難聴・視力低下が厄介なのは、“気づきにくい”のに“影響が大きい”こと

難聴や視力低下は、次の理由で面談実務を難しくします。

  • 本人が自覚していても 言い出しにくい(恥・遠慮・場の空気)
  • 「聞こえない」を繰り返すと面談が止まるため、頷きで流す行動が増える
  • 家族が善意で 代わりに説明し、本人の訂正機会が失われる
  • マスク、パーテーション、雑音、オンラインの音質で、さらに悪化する

結果として、面談は「成立しているように見える」一方で、重要点だけが抜けたまま進みやすくなります。


2) “能力の問題”に見えて、実は「伝達条件の問題」というパターン

難聴・視力低下が絡むと、現場ではこうなりがちです。

  • 「分かりましたか?」→本人「はい」
    しかし、本人の言い換え(要約)が出ない/前提が違う
  • こちらが図や書面を示したつもりでも、本人は見えていない(文字が小さい、照明、疲労)
  • 家族が補足しすぎて、後から見ると 家族の言葉しか残らない

ここで問題になるのは、診断名ではなく実務としての一点です。
“説明が届いたこと”を、あとから説明できる形で担保できているかです。


3) 医師の視点:同意っぽい相槌が増える「条件」を先に潰す

難聴・視力低下が疑われるとき、面談の前に“条件”を整えるだけで、本人の言葉が戻ることがあります。

  • 環境:静かな部屋、雑音源(TV/空調/廊下)を避ける
  • 座席:本人の利き耳・見えやすい方向、距離、対面位置
  • 話し方:早口を避け、1テーマずつ短く
  • 視覚化:要点を紙に書く(大きい文字)/選択肢を並べる
  • 確認:「分かった?」ではなく「あなたの言葉で言うと?」(teach-back)

ここが整うと、本人の反応が「うん」中心から、理由や優先順位に近い方向へ動くことがあります。


4) 先生向け:難聴・視力低下が疑われるときの実務チェック(一般論)

※鑑定ではなく、紛争予防としての段取りです。

(1) “聞こえ”の確認は、医療ではなく「面談条件」として扱う

  • 補聴器があるか/当日装用しているか
  • マスク・パーテーションで口元が見えない状況になっていないか
  • オンラインなら音量・イヤホン・回線品質が担保されているか

(2) “見え”の条件を整える(視力は軽視されがち)

  • 眼鏡の有無、照明、文字サイズ
  • 資料はA4でも 大きいフォント、余白多め
  • 重要語は太字・箇条書き(長文は避ける)

(3) 確認の型を固定する(後から一番効く)

  • 説明(短く)→要約(先生)→本人の言い換え(短く)
    この流れを、重要点だけでも入れると「届いていた」説明材料になります。

(4) 家族の代弁は“情報提供”に留める(本人の訂正ルートを確保)

  • 家族が話す → 先生が短く要約 → 本人に確認
  • 本人が訂正できる方法(首振り/指差し/選択肢)を先に作る
    ※家族の同席自体を否定する趣旨ではなく、「本人の訂正機会」を担保する意図です。

5) ケース例(匿名の典型):本人は頷くが、重要点だけ抜けたまま進む

※個別事案ではなく、よくある状況の一般化です。

【状況】
本人は穏やかに頷き、面談は成立しているように見える。家族は安心し、先生も手続を前に進める。

【後から起きること】
別の相続人が「本人は理解していなかったのでは」と疑う。争点は内容から、説明の届き方・同席状況・確認方法へ移る。

【ポイント】
このタイプは能力論より先に、伝達条件(聞こえ・見え)と確認の型でリスクが変わります。


当室が担えること(司法書士の先生向け)

当室では診断・治療や鑑定、法律判断は行いません。
紛争予防の観点から、先生方の実務に接続しやすい形で **「伝達条件の整理」と「面談整理(情報整理・文書化)」**を行います。

  • 難聴・視力低下を含む「意思が表れやすい条件」の整理(環境・座席・話し方・視覚化)
  • 本人の言葉(または意思表現)が出やすい面談条件の設計
  • 後から説明可能な形での面談整理(情報整理・文書化)

※具体的な手続判断・文案作成は、司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。


まずは「連携のご挨拶(20分・無料)」から(先生向け)

「このケース、能力の問題として扱うべきか、条件設計で安定化する余地があるか」など、初動の見立てだけでも実務は動きやすくなります。
先生向けにオンライン20分(無料)でご相談の入口をご用意しています。

司法書士・専門家の方:お問い合わせ(司法書士・専門家の方)


ご相談(対面/オンライン)

当方の対応は以下のとおりです。

  • 対面:京都・大阪近辺を中心に対応
  • オンライン:全国対応(内容により)

「まだ遺言内容が固まっていない」「何が不安なのか整理できていない」という段階でも大丈夫です。状況を伺ったうえで、進め方をご提案します。


注意

本記事は一般的な情報提供であり、医療行為(診断・治療)や法律上の個別助言を行うものではありません。個別の状況により適切な対応は変わります。

著者情報

回復期病棟で高齢者・認知症診療に従事する医師。生活に直結する意思決定支援の経験を踏まえ、相続・遺言の場面で「意思が表れる条件整理」と「面談整理(紛争予防のための情報整理)」を行う。著者情報はこちら

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