家族の方へ:自筆?公正証書?——「うちはどっち?」を“現実”から選ぶ(失敗しやすいポイントで逆算)

遺言を作ろうと思ったとき、多くの家族が最初に迷うのが

  • 自筆証書遺言(自分で書く)
  • 公正証書遺言(公証役場で作る)

のどちらにするかです。

ネットでは「公正証書が安心」「自筆は手軽」などと書かれています。
でも家族の現実はもっと生々しくて、

  • 親が嫌がる
  • 体調に波がある
  • きょうだい関係が悪い
  • 不動産がある
  • “任せる/どうでもいい”が増える
  • 家族が段取りしすぎて“誘導”に見える

といった条件で、最適解が変わります。

この記事では家族の方向けに、「法律論」だけでなく、揉めやすさ・失敗しやすさから逆算して、選び方を一般論でまとめます。


担当医師について(背景)

私は回復期病棟で高齢者診療・認知症診療に従事し、ご本人・ご家族を交えた意思決定支援に携わっています。

臨床では、意思決定は「能力」だけでなく、体調・疲労・睡眠、痛み、薬、不安、難聴などの伝達条件、同席者の影響といった“条件”で揺れます。
遺言の場面でも、この条件が整わないまま進むと、あとで「本当に理解して決めたのか」「誘導だったのでは」という疑いが育ちやすくなります。


1) 先に結論:迷ったら「公正証書寄り」で検討が無難な家庭が多い

まず大枠として、家族の現実を踏まえると

  • 揉め要素がある(不動産/偏り/きょうだい不仲)
  • 本人の体調に波がある
  • 形式ミスを避けたい
  • “遺言が見つからない”を避けたい

こういう場合は、一般論として 公正証書遺言に寄せた方が失敗しにくいです。

一方で、自筆にも向く状況があります。大事なのは「手軽さ」ではなく、**失敗の仕方(どこで詰むか)**を理解して選ぶことです。


2) 自筆証書遺言(自分で書く)の「良い点」と「現実の落とし穴」

良い点(家族にとってのメリット)

  • すぐ着手できる
  • 外に行かずに進められる(親が動きたくない場合に魅力)
  • 内容が外部に伝わりにくい(心理的にハードルが低い)

現実の落とし穴(家族が詰みやすい)

  • 形式ミス(日付、署名、訂正方法など)で無効リスク
  • 保管問題(見つからない/隠される/捨てられる)
  • “本人が本当に書いたのか”が争点化しやすい
  • 体調・難聴・疲労などの条件が悪いと、本人が「うん」で進みやすく、あとで疑いが育つ
  • きょうだい不仲だと「偽造」「誘導」の疑いが入りやすい

要するに自筆は、手軽な分だけ 争点の入口が増えやすい方式です。


3) 公正証書遺言(公証役場)の「良い点」と「家族が誤解しやすい点」

良い点(家族にとってのメリット)

  • 形式不備で無効になりにくい
  • 原本が公証役場で保管され、紛失・改ざんリスクが低い
  • 家族が「遺言が見つからない」を避けやすい

よくある誤解(これが危ない)

「公正証書なら絶対に揉めない」「能力の問題も大丈夫」
——これは言い過ぎです。

公正証書でも、後から争いになると
**“その日にどう確認したか”**や、同席者の影響が問題になることがあります。

特に最近は手続のデジタル化・オンライン活用が進み、便利になる一方で
画面越しの同席圧、伝達条件の取りこぼしが増える可能性もあります。


4) 医師の視点:方式選びの前に「条件」を見ないと失敗する

方式を決める前に、家族が先に見るべきはここです。

  • 本人は午前と午後で違うか(疲労・日内変動)
  • 痛み・不眠・不安が強いか
  • 薬で眠気・注意低下が出ていないか
  • 難聴で説明が入っていない場面がないか
  • きょうだいの同席圧が強くないか(空気で決まる)

こういう条件があるほど、「手軽に済ませる」方向(自筆)は危険になりやすい。
逆に言えば、条件設計ができるなら、遺言づくりは安定します。


5) 家族向け:現実から逆算する「どっち?」チェック(簡易版)

公正証書を強くおすすめしやすいケース(一般論)

  • 不動産がある(自宅、共有、収益物件)
  • きょうだい関係が悪い/偏った配分になりそう
  • 本人の体調に波がある(眠気、痛み、不安)
  • 直近で入院・感染・術後など、状態が揺れやすい
  • 「遺言が見つからない」が怖い
  • 家族の関与が強くなりがち(誘導疑いが出そう)

自筆でも検討しやすいケース(一般論)

  • 財産がシンプル(預金中心で不動産なし等)
  • 相続人関係が単純で、争いリスクが低い
  • 本人が文章を書ける・書く意欲がある
  • 家族が過剰に介入しなくても進められる
  • 遺言の保管まで含めて設計できる(ここが重要)

※ただし「自筆が楽そうだから」という理由だけで選ぶと、後で高くつくことがあります。


6) ケース例(匿名の典型):自筆で早く済ませたつもりが、後から詰む

※個別事案ではなく、よくある状況の一般化です。

【状況】
親が公証役場を嫌がり、自筆で作成。家族は「これで安心」と思った。
ところが、きょうだいの一部が不満を持ち「本当に本人が書いたのか」「誘導では」と言い出す。

【後から起きること】
争点が“内容”ではなく、“作成時の状態”と“プロセス”に移る。
形式や保管の問題も絡み、結局手続が止まる。

【ポイント】
方式選びは、手軽さより **「疑われたときに耐えるか」**で考える方が安全です。


7) じゃあ、どう進める?(家族が失敗しにくい順番)

  1. 家族内で「火種」を棚卸し(不動産/不仲/偏り/同席圧)
  2. 本人の状態の“揺れ”を見立て(午前が良い等)
  3. 方式を選ぶ(迷ったら公正証書寄り)
  4. 当日の条件を設計(時間帯・区切り・同席・伝達条件)
  5. 文案・手続は司法書士等へ(地雷を踏まない)

当室が担えること(家族向け)

当室では診断や治療、法律判断は行いません。
紛争予防の観点から、**「意思が表れやすい条件整理」と「面談整理(情報整理・文書化)」**を行います。

  • 体調・睡眠・痛み・薬・不安、難聴などの伝達条件、同席圧を含めた条件整理
  • 本人の言葉が出やすい面談条件の設計(時間帯、区切り、同席設計)
  • 後から説明可能な形での面談整理(情報整理・文書化)

※具体的な遺言の方式・文案・法的手続は、司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。

まずは書面での事前スクリーニング(おすすめ)

「まず論点と条件だけ短く整理したい」という場合は、書面完結の事前スクリーニングをご利用いただけます。
(納品:A4 1〜2枚PDF/標準5営業日)

家族の方:お問い合わせ(家族)

ご相談(対面/オンライン)

当方の対応は以下のとおりです。

  • 対面:京都・大阪近辺を中心に対応
  • オンライン:全国対応(内容により)

「まだ遺言内容が固まっていない」「何が不安なのか整理できていない」という段階でも大丈夫です。状況を伺ったうえで、進め方をご提案します。


注意

本記事は一般的な情報提供であり、医療行為(診断・治療)や法律上の個別助言を行うものではありません。個別の状況により適切な対応は変わります。

著者情報

回復期病棟で高齢者・認知症診療に従事する医師。生活に直結する意思決定支援の経験を踏まえ、相続・遺言の場面で「意思が表れる条件整理」と「面談整理(紛争予防のための情報整理)」を行う。著者情報はこちら

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