家族の方へ:親に「遺言」を切り出す言い方——揉めないための“最初の一言”と、うまくいく順番

「遺言の話をしたい。でも、親が嫌がりそうで言い出せない」
「“縁起でもない”と言われて終わる」
「きょうだいの前で切り出したら空気が悪くなった」

これは珍しい悩みではありません。むしろ自然です。

遺言は、内容の前に 切り出し方 でつまずきます。
そして一度つまずくと、親は「またあの話か」と警戒し、家族も疲れて先延ばしになりがちです。

この記事では家族の方向けに、親に遺言を切り出すときの 言い方(台本) と、揉めないための 順番 を一般論としてまとめます。


担当医師について(背景)

私は回復期病棟で高齢者診療・認知症診療に従事し、ご本人・ご家族を交えた意思決定支援に携わっています。

臨床では、意思決定は「能力」だけでなく、体調・疲労・睡眠、痛み、薬、不安、難聴などの伝達条件、同席者の影響といった“条件”で揺れます。
相続・遺言の場面でも、条件が整わないまま話を進めると、親が「任せる」「どうでもいい」になったり、家族が「同意が取れた」と誤認したりして、あとで疑いが育ちやすくなります。


1) 先に結論:切り出しは「遺言」より“困りごと”から入る方がうまくいく

親にとって「遺言」は、次の感情を呼びやすい言葉です。

  • 死を突きつけられる感じがする
  • 子どもに急かされている感じがする
  • お金目当てに見えるのが嫌
  • きょうだい喧嘩の火種になるのが怖い

だから最初は、遺言という単語で正面から行くより、**家族の困りごと(将来の手続や負担)**から入る方が通りやすいです。


2) 親が嫌がる“地雷ワード”と、言い換え

避けた方がよい言い方(地雷になりやすい)

  • 「遺言書書いて」
  • 「相続で揉めたくないから」
  • 「もし死んだら…」
  • 「きょうだいで決めよう」
  • 「とりあえず家は長男でいいよね?」(結論から入る)

親側には「追い詰められた」「操られる」感じが出やすいです。

言い換えのコツ(安心が出やすい)

  • 「“もしもの時の手続”を、私たちが困らない形にしておきたい」
  • 「お金の話というより、“手続が止まるのを避けたい”」
  • 「今日は決めない。まず“確認だけ”したい」
  • 「あなたの希望を、後で揉めない形に“整える”だけ」

3) そのまま使える:切り出し台本(3パターン)

親の性格・家族状況で使い分けてください。

パターンA:いちばん無難(手続・負担から入る)

「最近、相続登記とか色々“手続が止まる”話を聞いてね。
私たちが困らないように、もしもの時の段取りだけ一回一緒に確認したい。
今日は決めないで、まず“どこが面倒になりそうか”だけ教えて。」

パターンB:親の不安に寄せる(“揉め”は正面から言わない)

「私たちが揉めないためというより、あなたが安心できる形にしておきたい。
何かあった時に、あなたの希望が“伝わらない”のが一番嫌だから。」

パターンC:きょうだいが割れているとき(同席圧を避ける)

「最初は私と二人で、あなたの希望を整理するだけにしない?
きょうだい全員で集まると、空気で決まったみたいになるのが心配で。
まとまったら、共有の回は別に作ろう。」


4) 医師の視点:切り出しの成否は「内容」より“条件”で決まることがある

親が「嫌がる」「怒る」「任せるになる」時、能力の問題というより、条件の問題が混ざることがあります。

  • 眠い・疲れている(夕方に悪化しやすい)
  • 痛みや息苦しさがある
  • 不安が強い(“決める”ことが怖い)
  • 難聴で、説明がちゃんと入っていない
  • 同席者が多く、空気で「うん」と言ってしまう

おすすめは、午前・短時間・人数少なめです。
「1回で決める」のではなく、「30分だけ」「今日は確認だけ」の方がうまくいきます。


5) うまくいく“順番”(遺言の前にやると成功率が上がる)

Step 1:今日の目的を小さくする

  • 今日のゴールは「決める」ではなく「確認」
  • 例:「不動産が誰名義かだけ」「通帳がどこかだけ」

Step 2:話題は1テーマだけ(分岐を増やさない)

  • 家のこと/預金のこと/誰に渡すか、を混ぜない
  • 1テーマずつ短く

Step 3:家族会議は“共有回”と“決定回”を分ける

  • いきなり全員集合は、同席圧で失敗しやすい
  • 最初は本人+キーパーソン1名で整理
  • 共有は別日に

Step 4:方式(公正証書・自筆)は専門家と詰める

家族だけでやると、形式不備や火種(不動産・遺留分等)を踏みやすい領域です。
「切り出しが通った」段階で、専門家につなぐのが安全です。


6) ケース例(匿名の典型):正しいことを言ったのに、言い方で失敗する

※個別事案ではなく、よくある状況の一般化です。

【状況】
子が「遺言書を書いて」と正面から言う。親は「縁起でもない」「財産目当てか」と反発。以後、話題に出すだけで険悪になる。

【ポイント】
内容の正しさではなく、親の感情(不安・防衛)に触れてしまった。
最初は“手続の段取り”から入る方が通りやすい。


当室が担えること(家族向け)

当室では診断や治療、法律判断は行いません。
紛争予防の観点から、**「意思が表れやすい条件整理」と「面談整理(情報整理・文書化)」**を行います。

  • 体調・睡眠・痛み・薬・不安、難聴などの伝達条件、同席圧を含めた“条件整理”
  • 親の言葉が出やすい面談条件の設計(時間帯、区切り、同席設計)
  • 後から説明可能な形での面談整理(情報整理・文書化)

※具体的な遺言の方式・文案・法的手続は、司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。


まずは書面での事前スクリーニング(おすすめ)

「まず論点と条件だけ短く整理したい」という場合は、書面完結の事前スクリーニングをご利用いただけます。
(納品:A4 1〜2枚PDF/標準5営業日)

家族の方:お問い合わせ(家族)

ご相談(対面/オンライン)

当方の対応は以下のとおりです。

  • 対面:京都・大阪近辺を中心に対応
  • オンライン:全国対応(内容により)

「まだ遺言内容が固まっていない」「何が不安なのか整理できていない」という段階でも大丈夫です。状況を伺ったうえで、進め方をご提案します。


注意

本記事は一般的な情報提供であり、医療行為(診断・治療)や法律上の個別助言を行うものではありません。個別の状況により適切な対応は変わります。

著者情報

回復期病棟で高齢者・認知症診療に従事する医師。生活に直結する意思決定支援の経験を踏まえ、相続・遺言の場面で「意思が表れる条件整理」と「面談整理(紛争予防のための情報整理)」を行う。著者情報はこちら

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