家族の方へ:遺言無効確認訴訟は「現実に起きます」—いったん始まると長い・高い・しんどい。だから“早めの準備”が効きます
「遺言があれば揉めない」——そう思いたい気持ちは自然です。
でも現実には、遺言があるからこそ争いが先鋭化し、遺言無効確認訴訟に進むことがあります。
この訴訟は、家族にとって
- 時間がかかる(生活が止まる)
- お金がかかる(見えにくい出費が続く)
- しんどい(家族関係が壊れやすい)
という、かなり重いイベントです。
この記事では、家族の方向けに「現実の重さ」をはっきり書いたうえで、争う前にできる準備を一般論としてまとめます。
※本稿は一般的な情報提供です。法律上の個別助言を行うものではありません。具体的な訴訟方針は弁護士にご相談ください。医療上の診断・治療を行うものでもありません。
担当医師について(背景)
私は回復期病棟で高齢者診療・認知症診療に従事し、ご本人・ご家族を交えた意思決定支援に携わっています。
臨床では、意思決定は「能力」だけでなく、体調・疲労・睡眠、痛み、薬、不安、難聴などの伝達条件、同席者の影響といった“条件”で揺れることを前提に関わります。相続・遺言の場面でも、この「条件」が整わないまま進むと、後から“疑い”が育ちやすくなります。
1) 遺言無効確認訴訟とは(ざっくり)
遺言無効確認訴訟は、
「その遺言は無効です(効力がありません)」
と裁判所に確認してもらうための訴訟
です。
ここで大事なのは、「遺言の内容が気に入らない」だけでは終わらないこと。
争点は多くの場合、「当時の本人が本当に理解し、自分の意思で決めたのか」「そう言えるプロセスだったのか」に移っていきます。
2) 現実に何が起きるか:長い・高い・しんどい
訴訟の進行や費用は事案により違いますが、家族が直面しやすい現実は共通しています。
長い(時間がかかる)
- 手続が止まる・遅れる
- 「いつ終わるか分からない」期間が続く
- その間、相続人同士の連絡がギスギスしやすい
高い(お金がかかる)
- 目に見える費用(弁護士費用等)だけでなく、
- 目に見えにくい費用(移動、休業、書類取得、精神的負担からくる生活の崩れ)が積み上がります
しんどい(家族関係が壊れる)
- 「親の意思」をめぐって、きょうだいが敵味方に分かれやすい
- 「あのときあなたが…」という過去の責任追及になりやすい
- 争いが終わっても関係が戻らないことがあります
結局、争点は遺言の紙1枚ではなく、家族全体の信頼に飛び火します。
3) 無効が主張されやすいのは「形式」より“疑いが生まれる状況”
よくある争点(一般論)には次があります。
- 本人は本当に理解していたのか(意思能力・理解の問題)
- 誘導や圧力があったのでは(同席圧・支配の疑い)
- 説明や確認が十分だったのか(プロセス)
- その日の体調が悪かったのでは(睡眠不足、痛み、薬の影響、不安など)
- 作成の場面が不自然ではないか(家族の関与が強すぎる等)
ここで重要なのは、本人の普段の印象だけでは説明になりにくいことです。
争いになると、「普段はしっかりしていた」は、相手方から簡単に否定されます。
4) 医師の視点:意思表示が弱く見えるのは“能力”ではなく“条件”のことがある
家族が一番見落としやすいのは、次です。
- 眠い・疲れている
- 痛い・苦しい
- 不安が強い(決めること自体が怖い)
- 薬で眠気や注意力低下が出ている
- 難聴で説明が入っていない
- 同席者が多く、空気で「うん」と言ってしまう
こういう条件では、本人は
- 「任せる」「どうでもいい」
- 「うん(同意っぽい返事)」 が増えます。
これを「同意が取れた」と受け取って進めると、後から「怖くて適当に返事しただけ」「よく分からなかった」が出たとき、家族が詰みます。
詰むのは“内容”ではなく、プロセスの説明材料が残っていないからです。
5) ケース例(匿名の典型):当日は順調、あとで一気に燃える
※個別事案ではなく、よくある状況を一般化したものです。
【状況(典型)】
公正証書遺言を作成。家族は「公証人が関与しているし安心」と思った。本人は当日、短い返答で「うん」と進めた。家族も「早く済ませたい」気持ちがあった。
【後から起きること】
一部の相続人が「誘導では」「理解していなかったのでは」と言い出す。
本人の当日の状態、同席者の影響、説明のされ方が争点化し、家族が分裂する。
【ポイント】
公正証書であっても、「その日にどう確認したか」が弱いと、疑いは消えません。
6) 早めの準備が効く理由:争点化しやすい“芽”は、揉める前に潰せる
遺言無効確認訴訟を100%防ぐことはできません。
でも、揉めにくくすることはできます。家族がやるべきは「結論を急ぐ」ことではなく、条件と手順を整えることです。
準備①:「その日」を選ぶ(時間帯・区切り)
- 夕方や疲れている時間帯を避ける
- 30分×複数回など短く区切る
- 「今日は結論を出さない」回を作る
準備②:同席を設計する(同席圧を下げる)
- 最初は本人+キーパーソン1名で整理
- きょうだい全員同席は“共有”に寄せる
- 声の大きい人がいるほど、人数を絞る
準備③:伝達条件を整える(聞こえ・説明・理解確認)
- 1テーマずつ、短い説明
- 「分かった?」ではなく「あなたの言葉で言うと?」で確認
- 重要点は短いメモで見える化(聞き間違い対策)
準備④:プロセスを残す(説明可能性)
後から一番効くのはこれです。
- どんな条件で(時間帯、同席、体調など)
- どう確認したか(理解確認の方法、本人の言葉)
を整理して残す。
「争うため」ではなく、「争わないため」の保険です。
当室が担えること(家族向け)
当室では診断や治療、法律判断は行いません。紛争予防の観点から、**「意思が表れやすい条件整理」と「面談整理(情報整理・文書化)」**を行います。
- 体調・睡眠・痛み・薬・不安、難聴などの伝達条件、同席圧を含めた“条件整理”
- 本人の言葉が出やすい面談条件の設計(時間帯、区切り、同席設計)
- 後から説明可能な形での面談整理(情報整理・文書化)
※具体的な遺言の文案や法的手続は、司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。
まずは書面での事前スクリーニング(おすすめ)
「まず論点と条件だけ短く整理したい」という場合は、書面完結の事前スクリーニングをご利用いただけます。
(納品:A4 1〜2枚PDF/標準5営業日)
家族の方:お問い合わせ(家族)
ご相談(対面/オンライン)
当方の対応は以下のとおりです。
- 対面:京都・大阪近辺を中心に対応
- オンライン:全国対応(内容により)
「まだ遺言内容が固まっていない」「何が不安なのか整理できていない」という段階でも大丈夫です。状況を伺ったうえで、進め方をご提案します。
- 家族の方:お問い合わせ(家族)
- 司法書士・専門家の方:お問い合わせ(司法書士・専門家の方)
注意
本記事は一般的な情報提供であり、医療行為(診断・治療)や法律上の個別助言を行うものではありません。個別の状況により適切な対応は変わります。
著者情報
回復期病棟で高齢者・認知症診療に従事する医師。生活に直結する意思決定支援の経験を踏まえ、相続・遺言の場面で「意思が表れる条件整理」と「面談整理(紛争予防のための情報整理)」を行う。著者情報はこちら
