親に「任せる」と言われたときの注意点—同意と丸投げは違う
相続や遺言、家族信託の話題を出したとき、親(本人)から
「任せるよ」「あなたの好きにして」
と言われて、ホッとしたり、逆に不安になったりすることがあります。
けれど実務では、この「任せる」は便利な言葉である一方で、後から 「本当に本人の意思だったのか」 が争点になりやすい場面でもあります。
この記事では、結論に誘導するのではなく、「任せる」が出たときに揉めにくくするための注意点を一般論として整理します。
※本記事は一般的な情報提供です。医療上の診断・治療、法律上の個別助言や手続き代行を行うものではありません。具体的な手続きは弁護士・司法書士等へご相談ください。
「任せる」は“同意”ではなく、“状況反応”のことがある
「任せる」と言う背景は人によって違います。たとえば次のような要因があります。
- 疲れている/早く終わらせたい(長い説明・長時間の会話)
- 難しくて分からないが、角を立てたくない(気遣いによる同調)
- 家族の関係性で言いにくい(同席者の圧・雰囲気)
- 本当に信頼して任せたい(価値観としての委任)
つまり、「任せる=理解して同意した」ではなく、本人の状態や場の条件の影響で出る言葉である可能性があります。ここを見誤ると、後から揉めやすくなります。
医師の視点:意思は「能力」だけでなく「条件」で揺れる
私は回復期病棟で高齢者診療・認知症診療に従事し、ご本人とご家族を交えて「自宅に帰るか、施設に入所するか」など生活に直結する意思決定の支援も行っています。
その経験から強く感じるのは、意思決定は本人の能力だけでなく、体調・疲労・睡眠、説明の仕方、同席者といった “意思が表れる条件” で大きく変わるということです。
相続・遺言の場面でも、後から争点になりやすいのは結論より、その結論に至るプロセスが妥当だったかです。「任せる」が出たときほど、プロセスの整備が重要になります。
「任せる」が出たときに起きやすい3つの争点
1) 理解が十分だったか
「何を決める話だったのか」「結果として何が起きるのか」を本人が把握していたかが疑われやすくなります。
2) 本人の自由な意思だったか(誘導・圧の疑い)
同席者が多い、強い人が仕切る、反対意見が出る——こうした状況での「任せる」は、後から“圧”として解釈されやすいことがあります。
3) 内容の具体性がないまま進んだか
「任せる」のまま細部が第三者(家族)で決まっていくと、別の家族から「本人の意思が反映されていない」と言われやすい構図になります。
まず大切なのは「その場で進め切らない」判断(一般論)
「任せる」が出た直後に、急いで結論を固めるほどリスクが上がりやすくなります。
一般論としては、次のように一旦“整理の場”に戻す方が安全です。
- 今日は結論を決めず、希望と優先順位の整理をする
- 体調や疲労が強い日は、無理に進めない
- 同席者が多い場合は、人数と役割を整理してから次回に回す
※ここで細かい「質問の型」や「記録のテンプレ」まで書き始めると個別設計の領域になるため、本記事では一般論に留めます。
ケース例(匿名の典型):任せるが“同意”に見えてしまう
以下は個別事案ではなく、よくある状況を一般化したものです。
【ケース例】「任せる=OK」と受け取って進めたら、後から揉める
状況(典型)
本人が疲れてきたタイミングで「任せる」と言う。家族は「同意が取れた」と解釈し、手続きを進める。
起きやすい問題(争点)
後日、別の家族から「本人は理解していなかったのでは」「圧があったのでは」と疑われる。本人自身も「そんなつもりではなかった」と言い出すことがある。
揉めにくくするための考え方(一般論)
- “任せる”が出た背景(疲労・同席・伝達)を整理し、条件を整え直す
- 本人の価値観(何を大事にしたいか)を先に言語化する
- 後から説明できるよう、プロセス(条件)を整える
相談した方が良いサイン(一般的な目安)
- 「任せる」「どうでもいい」が増えている
- 会話が長くなると本人が疲れて反応が鈍る
- 家族の同席で本人が黙る/顔色をうかがう
- きょうだい間に不信があり、後から争点化しそう
- 聞こえにくさ・読みづらさがあり、確認が噛み合いにくい
当サービスでできること(一般論)
当室では、結論に誘導するのではなく、紛争予防の観点から次を整理します。
(※診断・治療、法律上の個別助言は行いません。)
- 「任せる」の背景にある要因(体調変動/疲労/伝達/同席者 等)の整理
- 本人の意思が表れやすい面談条件の設計(時間帯・説明の区切り・同席設計 等)
- 後から争点になりやすい点の洗い出しと、専門職と進めるための情報整理(面談整理)
ご相談(対面/オンライン)
当方の対応は以下のとおりです。
- 対面:京都・大阪近辺を中心に対応
- オンライン:全国対応(内容により)
「まだ遺言内容が固まっていない」「何が不安なのか整理できていない」という段階でも大丈夫です。状況を伺ったうえで、進め方をご提案します。
- 家族の方:お問い合わせ(家族)
- 司法書士・専門家の方:お問い合わせ(司法書士・専門家の方)
注意
本記事は一般的な情報提供であり、医療行為(診断・治療)や法律上の個別助言を行うものではありません。個別の状況により適切な対応は変わります。
著者情報
回復期病棟で高齢者・認知症診療に従事する医師。生活に直結する意思決定支援の経験を踏まえ、相続・遺言の場面で「意思が表れる条件整理」と「面談整理(紛争予防のための情報整理)」を行う。著者情報はこちら
