認知症があっても遺言は作れる?「できる/難しい」を分ける考え方
「認知症と診断されたら、もう遺言は作れないの?」
ご家族や士業の先生から、こうした相談はよくあります。
結論から言うと、病名だけで一律に決まるものではありません。大切なのは、遺言を作る“その時点”に、本人が内容を理解し、比較検討し、納得して決められているか(意思能力/意思決定能力)です。
著者:回復期病棟で高齢者診療・認知症診療に従事する医師。意思決定支援の臨床経験をもとに、相続・遺言の紛争予防のための事前整理を行っています。(運営者情報はこちら)
まず押さえたい:遺言で問題になるのは「病名」より「その時の理解と納得」
相続・遺言の紛争で争点になりやすいのは、ざっくり言うと次の2つです。
- その時、本人が何をしているか分かっていたか(理解)
- 誰に何を渡すのか等を概ね把握し、理由を説明できたか(納得・一貫性)
「認知症」という診断名があっても、状態は人によって幅があります。逆に、診断名がなくても、体調や疲れ、聞こえにくさ等で意思確認が難しく見える日もあります。
つまり、ポイントは “その日、その場での確認の質” です。
「できる可能性が高い」サイン/「難しい」サイン(一般語で)
ここでは診断ではなく、紛争予防の観点での一般的な目安を整理します。
できる可能性が高いサイン(目安)
- 遺言が「何のためのものか」を自分の言葉で説明できる
- 誰が家族(相続人)か、財産の大枠を概ね把握している
- 「なぜそうするのか」をある程度一貫して話せる
- 説明を区切って確認すれば、理解が追いつく(休憩で戻る等)
- 同席者がいても、本人が自分の言葉で話せる時間が確保できる
難しいサイン(目安)
- 重要な前提(家族関係、財産の大枠)の理解が成り立ちにくい
- 説明が入ってもすぐに混ざり、本人の言葉で要約できない
- 判断理由が大きく揺れる/その場その場で別の話になる
- 本人が疲れて集中が続かず、確認の前提が保てない
- 特定の同席者の影響が強く、本人が自由に話しにくい雰囲気がある
「難しいサイン」がある場合は、無理に進めてしまうと、後から争点になりやすくなります。
進め方(条件設計)を整えることが、結果的に近道になることが多いです。
ケース例(匿名の典型):MCI〜軽度認知症の“まだら”で迷う
状況(典型)
80代。物忘れは増えたが、日常会話は概ね成立。本人も「心配だから遺言を作りたい」と言う。
一方で、説明が少し長くなると混乱しやすく、家族関係や財産の話になると、言い間違いや言い直しが増える日がある。家族は「今日はしっかりしているから進めたい」と考えるが、別の日には本人が疲れて話が続かないこともある。
起きやすい問題(争点)
- 後から「理解が十分ではなかった」「誘導だった」と疑われやすい
- 「普段できる」印象と「作成当日の状態」が一致していたかが焦点になりやすい
- 内容が複雑になるほど“本人の言葉”が薄れ、プロセスの説明が難しくなる
紛争予防のために効く工夫(医師の観点を踏まえた一般的提案)
- 時間帯:本人が比較的疲れにくい時間を選ぶ(午前が合う人も多いが個人差あり)
- 説明の区切り:長い説明を避け、要点を短く区切って確認する
- 本人の言葉で確認:Yes/Noで終わらせず、本人の言葉で要約してもらう
- 同席の設計:本人が自由に話せる時間(本人パート)を確保し、同席者の役割を分ける
- 複雑化の回避:最初から高度なスキームに飛ばず、争点になりにくい形から検討する(士業と役割分担)
「後から揉めにくい」段取り(家族・士業で共通)
遺言は“結論(内容)”だけでなく、そこに至るプロセスが重要です。後から争われにくくするために、次の段取りが役立ちます。
- 前提の整理(家族関係・財産の大枠・本人の希望)
- 不安点の特定(理解が弱いのはどこか/疲れる条件は何か/同席の影響はあるか)
- 実施条件の設計(時間帯、説明の順番、同席、休憩の入れ方)
- 専門職の役割分担
- 手続・案文:司法書士/弁護士
- 紛争予防の事前整理:当室(医師としての観点で条件設計・争点整理)
ご相談(対面/オンライン)
- 対面:京都・大阪近辺を中心に対応
- オンライン:全国対応(内容により)
「まだ遺言内容が固まっていない」「何が不安なのか言語化できていない」段階でも大丈夫です。状況を伺い、進め方をご提案します。
- 家族の方:お問い合わせ(家族)
- 司法書士・専門家の方:お問い合わせ(司法書士・専門家の方)
注意
本記事は一般的な情報提供であり、医療行為(診断・治療)や法律上の個別助言を行うものではありません。個別の状況により適切な対応は変わります。
