遺言・家族信託で揉めないための「面談条件設計」—意思能力の不安は“環境”で増幅する

遺言や家族信託、財産管理の相談が進むとき、「意思能力(意思決定能力)が心配」という不安が生まれやすいのは自然なことです。
そして実務で厄介なのは、その不安が本人の“病名”だけで決まるのではなく、面談の条件(環境・同席・進め方)によって増幅したり、逆に落ち着いたりする点です。

「普段はしっかりしているのに、その日はうまく話せなかった」
「家族が同席したら本人が黙ってしまった」
「聞こえにくさで噛み合わず、焦って話を早く進めてしまった」

こうした“条件のズレ”は、後から「その時、本当に本人の意思だったのか」「誘導ではなかったか」と争点化しやすい要因になります。

私は回復期病棟で高齢者診療・認知症診療に従事する医師として、日々、本人と家族の意思決定(退院先の選択など生活に直結する意思決定)を支援しています。そこで強く感じるのは、意思決定が成立するかどうかは、本人の能力だけでなく、意思が“表れる条件”を整えられるかに大きく左右されるということです。

この記事では、医師の視点も踏まえ、遺言作成前後で揉めにくくするための「面談条件設計」を一般論として整理します。

※本記事は一般的な情報提供です。医療上の診断・治療や、法律上の個別助言・手続き代行を行うものではありません。具体的な手続きは主治医・弁護士・司法書士等へご相談ください。


面談条件設計とは:「本人の意思が表れやすい条件」を先に決めること

面談条件設計は、難しい専門用語ではありません。要点はシンプルで、

  • いつ(時間帯)
  • どこで(環境)
  • 誰と(同席者)
  • どう進めるか(説明と確認の仕方)
  • 何を残すか(記録)

を先に決め、当日のブレを減らすことです。

意思能力(意思決定能力)は「その時点の機能」で考える、という前提に立つほど、条件設計の価値は上がります。


医師の観点:意思能力を揺らす“条件の落とし穴”

同じ本人でも、次のような条件で受け答えの質が揺れます。これは「能力がない」という話ではなく、「意思が表れにくい状況がある」という話です。

1) 体調・疲労・時間帯

午前は明瞭でも、午後に疲れが出る方もいます。逆もあります。
重要な判断ほど、その人が力を発揮しやすい時間帯に合わせたほうが安定します。

2) 服薬・睡眠・痛み(集中力の揺れ)

眠気、痛み、不眠は、理解・比較検討を浅くしやすい代表例です。
本人が「早く終わらせたい」モードになり、確認が薄くなることがあります。

3) 聞こえ・見え方(伝達条件)

聞こえにくさや見えづらさがあると、内容ではなく“手段”でつまずきます。
その結果、周囲が焦って説明を端折ったり、本人が合わせてうなずいたりして、後から「分かったことにされた」「誘導された」という疑念が生まれやすくなります。

4) 同席者の圧(雰囲気・関係性)

本人が気を遣う相手が同席していると、本人の言葉が出にくくなることがあります。
「家族のために良い人でいたい」「反対されるのが怖い」など、意識しない圧が働くこともあります。


チェックリスト:揉めにくくする「面談条件設計」10項目

以下は、遺言・家族信託などの前に“整えておくと事故が減る”項目です(一般論)。

  1. 目的を一文で:「今日は“結論を決める”のか、“本人の考えを整理する”のか」
  2. 時間帯の選定:本人が一番はっきりする時間に合わせる
  3. 所要時間を短く:長丁場にしない(途中休憩を前提にする)
  4. 環境:静か・明るい・暑すぎ寒すぎない・椅子が楽
  5. 伝達条件:補聴器・眼鏡・資料の文字サイズ・話す速度
  6. 同席者を絞る:原則少人数(役割が増えるほど混線する)
  7. 本人の単独時間を確保:途中で必ず「本人だけで話す時間」を入れる
  8. 説明は短く区切る:「長い説明→うなずき」ではなく「短い要点→本人の言葉で言い返し」
  9. 確認の枠組み:理解/比較検討/一貫性/見通し(どこが弱いかを先に意識)
  10. 記録方針:何を残すか(日時・同席者・体調・資料・合意点/未合意点/保留点)

ケース例(匿名の典型):条件設計で何が変わるか

以下は個別事案ではなく、よくある状況を一般化したものです。

【ケース例1】家族同席で本人が黙る(同席圧)

状況(典型)
本人は普段しっかり会話できるが、特定の家族が同席すると表情が硬くなり、「うん」「任せる」が増える。

起きやすい問題(争点)
後から「本人は本当は反対だった」「圧があったのでは」と疑われやすい。
“本人の意思”ではなく“家族の意思”に見えてしまうリスク。

条件設計で変わる点

  • 同席者を絞る/役割を分ける(進行役・記録役など)
  • 途中で本人単独時間を入れ、本人の言葉を拾う
  • 「今日は結論を決めない」回を先に作り、本人の価値観を整理する

【ケース例2】説明が長くて「分かった」で進む(確認方法)

状況(典型)
専門用語が多く、説明が長い。本人は疲れて「分かったよ」と言うが、理解の深さは不明。

起きやすい問題(争点)
後から「理解していなかった」「比較検討ができていなかった」と言われやすい。

条件設計で変わる点

  • 説明を短く区切り、本人の言葉で言い返してもらう
  • 選択肢の比較(なぜそれが良いと思うか)を引き出す
  • その日無理なら“決めない判断”をしやすくする

【ケース例3】聞こえにくさで噛み合わず焦る(伝達条件)

状況(典型)
難聴があり、早口だと聞き取れない。周囲は「理解していない」と焦り、確認が雑になる。

起きやすい問題(争点)
本質は伝達条件なのに、「意思能力がない/ある」の二択に落ちて対立する。
または、うなずきだけで進めて「誘導」疑いになる。

条件設計で変わる点

  • 音量・速度・資料提示を整える(条件の問題として整理)
  • 確認方法の妥当性を後から説明できる形にする
  • “能力”と“伝達”を分けて記録する

医師が関与すると何が変わるか(まとめ)

遺言作成そのものは法律の領域です。一方で、紛争予防の観点では「本人の能力・意思の自由」が争点になりやすい案件があります。
そのような場面で医師が関与すると、一般論として次の点が変わります。

  • 「ある/ない」の二択ではなく、能力を要素分解して争点を先に特定できる
  • 本人が力を発揮しやすい条件(時間帯・説明方法・同席者など)を設計しやすい
  • 後から説明できるよう、プロセス(どう確認したか/どんな条件だったか)を言語化できる
  • 同席圧や誘導のリスクを下げ、本人の言葉が出る場づくりをしやすい

ここでいう医師の関与は、診断や治療をするという意味ではなく、紛争予防のために「意思決定が成立する条件整理」と「進め方の設計」を行うという位置づけです(法的判断は士業の先生の領域です)。


当サービスでできること(何を整理し、何が前に進むか)

当方は、回復期病棟での高齢者・認知症診療および意思決定支援の経験を踏まえ、紛争予防のために次の点を整理します。
(※診断・治療や、法律上の個別助言そのものを行うものではありません。)

  • 意思能力の不安が「どの条件で増幅しているか」(体調変動/服薬・睡眠/伝達/同席者など)の整理
  • 本人の意思が表れやすい面談条件の設計(時間帯、説明の区切り方、同席者の工夫 等)
  • 後から争点になりやすい点の洗い出しと、士業の先生と進めるための情報整理
  • 合意点/未合意点/保留点を分け、次に何を確認すべきかを整理

相談した方が良いサイン(一般的な目安)

次のような状況がある場合は、早めに段取りを組む価値が高いです。

  • 日によって受け答えが大きく変わる
  • 眠気が強い日がある/集中が続かない日がある
  • 聞こえにくさ・読みづらさがあり、確認が噛み合いにくい
  • 家族間に不信があり、後から争点化しそう
  • 特定の同席者の影響が強く、本人が自由に話しにくい

まずは「連携のご挨拶(20分・無料)」から(先生向け)

このケース、いま何を優先して整えるべきか——初動の見立てだけでも、その後の進め方が大きく変わります。
先生向けにオンライン20分(無料)でご相談の入口をご用意しています。

司法書士・専門家の方:お問い合わせ(司法書士・専門家の方)


ご相談(対面/オンライン)

当方の対応は以下のとおりです。

  • 対面:京都・大阪近辺を中心に対応
  • オンライン:全国対応(内容により)

「まだ遺言内容が固まっていない」「何が不安なのか整理できていない」という段階でも大丈夫です。状況を伺ったうえで、進め方をご提案します。


注意

本記事は一般的な情報提供であり、医療行為(診断・治療)や法律上の個別助言を行うものではありません。個別の状況により適切な対応は変わります。

著者情報

回復期病棟で高齢者・認知症診療に従事する医師。生活に直結する意思決定支援の経験を踏まえ、相続・遺言の場面で「意思が表れる条件整理」と「面談整理(紛争予防のための情報整理)」を行う。著者情報はこちら

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