家族の方へ:「昨日と言うことが違う」は“嘘”とは限らない—体調・不安・薬で意思表示が揺れることがあります

親の遺言、家族信託、施設入所、財産管理などの話をしようとしたときに、本人が

  • 「昨日は賛成って言ったのに、今日は反対」
  • 「さっきは任せるって言ったのに、急に怒り出した」
  • 「同じ説明をしたのに、受け取り方が毎回違う」

ということがあります。

家族としては当然不安になりますし、「認知症が進んだのでは」「もう判断できないのでは」と考えがちです。
ただ臨床では、意思表示は“能力だけ”で決まらず、体調・疲労・睡眠・痛み・薬・不安・伝達条件・同席者といった“条件”で揺れる場面が少なくありません。

本稿は法律実務の解説ではなく、家族の方が「揉めにくい進め方」を考えるための、医師側の視点を一般論としてまとめたものです。

※本稿は一般的な情報提供です。医療上の診断・治療、法律上の個別助言や手続き代行を行うものではありません。緊急性がある場合は医療機関へ、法律判断が必要な場合は司法書士・弁護士等へご相談ください。


担当医師について(背景)

私は回復期病棟で高齢者診療・認知症診療に従事し、ご本人・ご家族を交えた退院支援の意思決定(自宅/施設等)を日常的に支援しています。
臨床では、意思決定は「能力」だけでなく、コンディションと場の設計で大きく変わります。相続・遺言など“後から争点になり得る”場面ほど、条件整理が重要になります。


「言うことが変わる」=意思がない、とは限らない

意思表示が揺れる背景として、次のような要因が重なることがあります(一般論)。

  • 疲労・睡眠不足:夕方になるほど判断が雑になる/イライラしやすい
  • 痛み・便秘・脱水:会話はできるが、考える余力が落ちる
  • 不安:決めること自体が怖く、話題を避けたり怒りに変わったりする
  • 薬の影響:眠気、ふらつき、注意力低下が出て「分かった」が増える
  • 感覚の問題(難聴・視力低下):聞き間違い・読み間違いが積み重なり、結論がブレる
  • 同席圧:子どもが複数いると“空気”で合わせてしまう(後から覆る)

大事なのは、ここを「性格」「わがまま」「嘘」と決めつけて進めると、本人の本音が出にくくなり、家族間の不信も増えることです。


高齢者では“分かりにくい不調”として出ることがある

高齢の方の不調は、本人が「落ち込んでいる」「不安だ」とは言わず、

  • 不眠
  • 食欲低下
  • だるさ
  • いらだち
  • 「もういい」「どうでもいい」
  • 「自分はもう十分生きた」

のように現れることもあります。
この状態で大きな決定(財産・相続・住まい)を急ぐと、**「本当に本人の意思だったのか」**が後から家族内で争点化しやすくなります。


ケース例(匿名の典型):同意っぽく見えるが、後から覆る

以下は個別事案ではなく、よくある状況を一般化したものです。

【ケース例】夕方は「うん」で進むが、翌日否定される

状況(典型)
日中は比較的しっかりしているが、夕方になると疲れて「うん」「それでいい」と言いやすい。家族は「同意が取れた」と受け取り、手続きを進めたくなる。

起きやすい問題(家族内の火種)
翌日「そんな話、知らない」「勝手に決めた」と本人が言い、家族が混乱する。
結果的に「誘導されたのでは」「圧があったのでは」という疑いが生まれ、きょうだい関係にも影響が出る。

医療側の観点で整理しやすい点(一般論)

  • 夕方の疲労や眠気で、検討力が落ちていないか
  • 難聴や理解のズレが「うん」で埋まっていないか
  • 話す“場”を変える(時間帯・人数・区切り方)だけで、本人の言葉が増える余地があるか

※具体的な質問セットや記録テンプレはご家庭の状況で最適解が変わるため、本稿では一般論に留めます。


家族にとっての実利:「正しさ」より“条件とプロセス”を整える

紛争予防の観点では、後から問われやすいのは「病名が何か」よりも、

  • その日の状態(疲労、不安、眠気、痛み など)
  • 伝達条件(聞こえ、説明の区切り、資料の見せ方)
  • 同席者(人数、関係性、圧の有無)
  • どう確認したか(急がせなかったか、選択肢を整理したか)

が説明できるかどうか、にあります。


今日からできる「意思が出やすい条件整理」(家族向け)

全部やる必要はありません。効くところからで十分です。

1)時間帯を変える(最優先)

  • 夕方〜夜は避ける
  • 本人が比較的楽な時間帯(午前中など)に短くやる

2)人数を絞る(同席圧を下げる)

  • まずは1対1(本人+キーパーソン)で整理
  • きょうだい全員同席は、必要な場面だけにする

3)“一気に決めない”設計にする

  • その場で結論を迫らない
  • 「今日は選択肢を並べるだけ」「次回までに気持ちを聞く」など、段階を作る

4)説明の粒度を落とす(選択肢は2つまで)

  • 選択肢を増やすほど、不安が強い人は固まります
  • まずは「AかB」で整理してから、必要なら細部へ

5)“本人の言葉”を拾う質問に寄せる

「どっちがいい?」より先に、

  • 「何が一番しんどい?」
  • 「いま一番避けたいのは何?」
  • 「ここだけは守りたい、はある?」
    の方が言葉が出ることがあります。

注意:「今は大きな決定を急がない方がいい」サイン

次のような状態が強いときは、家族の努力だけで押し切らず、医療機関や専門職と連携した方が安全です。

  • 眠れない日が続き、日中の集中が明らかに落ちている
  • 不安・怒りが強く、話題に触れた瞬間に会話が崩れる
  • 「うん」は言うが、内容の言い換えができない
  • 聞こえの問題が疑われるのに、補助(メモ、静かな環境)がない
  • 家族が“勝ち負け”になってきている(説得合戦)

当室が担えること(家族向け)

当室では診断や治療ではなく、紛争予防の観点から **「意思が表れやすい条件整理」と「面談所見の整理・文書化」**を行います。

  • 本人の意思表示を邪魔している要因整理(疲労・不安・薬・伝達条件・同席圧 等)
  • 本人の言葉が出やすい面談条件の設計(時間帯、区切り、同席設計、共有ルール 等)
  • 後日の説明可能性を担保する形での面談整理(情報整理・文書化)

※相続手続や文案作成などの法的業務は、司法書士・弁護士等の先生方の領域です。当室は「条件整理」「面談整理」に主眼を置きます。


ご相談(対面/オンライン)

当方の対応は以下のとおりです。

  • 対面:京都・大阪近辺を中心に対応
  • オンライン:全国対応(内容により)

「まだ遺言内容が固まっていない」「何が不安なのか整理できていない」という段階でも大丈夫です。状況を伺ったうえで、進め方をご提案します。


注意

本記事は一般的な情報提供であり、医療行為(診断・治療)や法律上の個別助言を行うものではありません。個別の状況により適切な対応は変わります。

著者情報

回復期病棟で高齢者・認知症診療に従事する医師。生活に直結する意思決定支援の経験を踏まえ、相続・遺言の場面で「意思が表れる条件整理」と「面談整理(紛争予防のための情報整理)」を行う。著者情報はこちら

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