家族の方へ:「ちゃんと意思能力を確認していない」と、あとで面倒になります—揉めないための“プロセス”の話

相続や遺言、家族信託、任意後見などを考え始めたとき、家族の中でこういう空気が生まれやすいです。

  • 「早く決めたほうがいいよね」
  • 「本人が“いいよ”って言ってるし進めよう」
  • 「公証役場も通るし大丈夫でしょ」

ところが、意思能力(意思決定できる状態)の確認が弱いまま進めると、後から“面倒なこと”が起きます。
それは、誰かが悪いからではなく、相続や財産の話が 利害と感情が絡みやすいテーマだからです。

本稿は法律や医療の個別判断を行うものではなく、家族の方が「揉めにくい進め方」を理解するための一般論です。

※本稿は一般的な情報提供です。医療上の診断・治療、法律上の個別助言や手続き代行を行うものではありません。個別の法律判断は司法書士・弁護士へ、症状や急変が疑われる場合は医療機関へご相談ください。


担当医師について(背景)

私は回復期病棟で高齢者診療・認知症診療に従事し、ご本人・ご家族を交えた退院支援の意思決定(自宅/施設等)を日常的に支援しています。
臨床では、意思決定は「能力」だけでなく、体調・疲労・睡眠、痛み、薬、難聴などの伝達条件、同席者の影響といった“条件”で揺れることを前提に関わります。


1) 「ちゃんと確認していない」と、何が面倒になるのか

面倒になるのは、多くの場合「結論」ではなく **プロセス(どう決めたか)**です。

たとえば後から、こんな疑いが出ます。

  • 「本当に理解していたの?」
  • 「誘導されたんじゃない?」
  • 「強い家族が決めさせたんじゃない?」
  • 「その日は調子が悪かったんじゃない?」
  • 「同意は取った“つもり”だっただけでは?」

この疑いが出ると、家族の関係が悪くなるだけでなく、手続きが止まったり、専門家対応が増えたりします。
つまり、“面倒”=時間・お金・家族関係が削れるということです。


2) 「意思能力」は白黒ではなく、条件で揺れます(ここが落とし穴)

家族が一番誤解しやすいのはここです。

  • 会話は成立している
  • 日常生活も回っている
  • だから「大丈夫」と思う

でも実際には、意思能力(意思決定の状態)は次の影響を受けます。

  • 睡眠不足、疲労
  • 痛み、便秘、脱水
  • 不安(「決めるのが怖い」)
  • 薬の影響(眠気、注意力低下)
  • 難聴などで説明が正確に伝わっていない
  • 同席者が多く“空気”で合わせてしまう(同席圧)

この状態だと、本人が
「任せる」「どうでもいい」「好きにして」
と言いやすくなります。

それを“同意”と受け取って進めると、後から「そんなつもりじゃなかった」が起きやすいのです。


3) ケース例(匿名の典型):同意っぽいのに、後から覆る

※よくある状況を一般化した例です。

【ケース例】公証役場も通ったし安心、と思って進めた

状況(典型)
本人は高齢。日によって疲れが強い。家族が複数同席すると本人は早く終わらせたくて「うん」「任せる」が増える。手続きは進んだ。

後から起きやすい面倒

  • きょうだいの一人が「誘導では?」と言い出す
  • 本人が「怖くて適当に返事しただけ」と言う
  • 「聞いてない」「勝手に決めた」の争いになる

ポイント
問題は“内容”というより、「そのとき本人がどういう条件で、どう理解し、どう選んだか」が説明しづらいことです。


4) 揉めないために家族が押さえるべきは「3つの確認」

「意思能力を確認する」といっても、家族が医学的に判定する必要はありません。
実務的には次の3つが重要です。

① その日の条件(体調・時間帯・薬・疲労)

  • 眠そうな夕方を避ける
  • 痛みや不安が強い日は「決める話」をしない
  • 短時間で区切る(30分×複数回)

② 伝達条件(聞こえ・説明の区切り・理解確認)

  • 1テーマずつ話す
  • 専門用語を避ける
  • 「分かった?」ではなく「あなたの言葉で言うとどう?」で確認する

③ 同席設計(同席圧を下げる)

  • 最初は本人+キーパーソン1名
  • きょうだい全員同席は“決める場”でなく“共有の場”にする
  • 声の大きい人がいるときほど人数を絞る

5) 「意思能力の確認が弱いまま進める」サイン(チェックリスト)

次のうち2つ以上当てはまれば、進め方を整えた方が安全です。

  • 「任せる/どうでもいい」が増えている
  • 日によって言うことが変わる
  • 同席者が多いほど、本人が黙る/早く終わらせたがる
  • 説明の途中で集中が切れる
  • 「はい」と言うが、言い換えができない
  • 家族内で解釈が割れている(同意だと思う人/疑う人がいる)

6) 先に「場と手順」を整えると、面倒を避けられます

揉めない家は、完璧な結論を最初から出しているのではなく、

  • いつ話すか
  • 誰が同席するか
  • どう伝えるか
  • どう決めたことにするか
  • 記録をどう残すか

という手順を持っています。

これがあると、結果として
「誘導だった」「聞いてない」
が起きにくくなります。


当室が担えること(家族向け)

当室では診断や治療ではなく、紛争予防の観点から 「意思が表れやすい条件整理」と「面談整理(情報整理・文書化)」 を行います。

  • 本人の意思が出にくい要因の整理(体調・睡眠・痛み・薬・不安、伝達条件、同席圧 等)
  • 話し合いの条件設計(時間帯、区切り、同席設計、共有ルール)
  • 後から説明可能な形での整理・文書化(面談整理)

※法律手続や文案作成などの法的業務は、司法書士・弁護士等の専門家の領域です。

ご相談(対面/オンライン)

当方の対応は以下のとおりです。

  • 対面:京都・大阪近辺を中心に対応
  • オンライン:全国対応(内容により)

「まだ遺言内容が固まっていない」「何が不安なのか整理できていない」という段階でも大丈夫です。状況を伺ったうえで、進め方をご提案します。


注意

本記事は一般的な情報提供であり、医療行為(診断・治療)や法律上の個別助言を行うものではありません。個別の状況により適切な対応は変わります。

著者情報

回復期病棟で高齢者・認知症診療に従事する医師。生活に直結する意思決定支援の経験を踏まえ、相続・遺言の場面で「意思が表れる条件整理」と「面談整理(紛争予防のための情報整理)」を行う。著者情報はこちら

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