家族の方へ:「デジタル遺言」は便利そうで、誤解が多い——2025年以降の公正証書デジタル化と、“揉めない手順”のポイント

「デジタルで遺言が作れるなら、早くてラクそう」
「オンラインで完結できるなら、家族の負担が減るのでは」——そう思うのは自然です。

ただ、“デジタル遺言”という言葉はとても紛らわしく、誤解のまま進めると、

  • 作ったつもりが、法的に遺言として成立していない
  • 便利にするほど、同席圧や誘導疑いが強まる
  • 当日の体調・薬・疲労で、意思表示が弱く見える
  • 死後のデジタル資産(スマホ・サブスク・暗号資産等)が詰む

といった落とし穴が起きます。

この記事では家族の方向けに、

  1. 「デジタル遺言」と言われがちなものの整理
  2. 2025年以降の公正証書手続のデジタル化で変わる点
  3. 便利になっても“揉めないために必要な条件”
    を一般論としてまとめます。

担当医師について(背景)

私は回復期病棟で高齢者診療・認知症診療に従事し、ご本人・ご家族を交えた意思決定支援に携わっています。

臨床では、意思決定は「能力」だけでなく、体調・疲労・睡眠、痛み、薬、不安、難聴などの伝達条件、同席者の影響といった“条件”で揺れることを前提に関わります。
相続・遺言の場面でも、この「条件」が整わないまま進むと、後から“疑い”が育ちやすくなります。


1) 先に整理:「デジタル遺言」には3つの意味が混ざっています

家族が言う「デジタル遺言」は、だいたい次のどれかです。

A. 公正証書遺言の“手続”がデジタル化する(=作成プロセスの一部が電子化)

2025年以降、指定の公証役場で順次、公正証書作成手続のデジタル化が進みます。
(メール嘱託・Web会議の利用・電子データでの作成/保存などが話題になりやすい部分です)

→ これは「遺言の方式が変わる」というより、手続が便利になる話です。

B. スマホやPCで文章を書いた=“デジタルな遺言書”

ここが一番危ない誤解です。
日本では、遺言の方式にルールがあり、たとえば自筆証書遺言は原則として全文・日付・氏名を自書する必要があります(※例外や細かな要件があります)。

→ 「スマホのメモに書いた」「PDFにして保存した」は、遺言として成立しない可能性があります。

C. デジタル資産(スマホ・口座・サブスク等)の“引き継ぎ”のこと

最近増えている現実の困りごとです。

  • スマホが開けない
  • サブスクが解約できず請求が続く
  • ネット証券・暗号資産が分からない
  • 写真・データ・アカウントが凍結する

→ これは「遺言書そのもの」とは別に、死後の実務として対策が必要になります。


2) 2025年以降に増える“便利さ”と、同時に増える“揉めやすさ”

公正証書手続のデジタル化やオンラインの活用は、家族の移動負担を減らすなどメリットがあります。

ただし、便利になるほど見落とされやすいのが次の2点です。

  • 同席圧:画面の外に家族がいる/家族が会話を支配する
  • 伝達条件の見落とし:難聴、疲労、眠気、痛み、不安などが画面越しだと気づきにくい

つまり、オンライン化は「早く終わる」一方で、後から
「本当に本人が理解していたのか」「誘導があったのでは」
という疑いが育ちやすい面があります。


3) 医師の視点:デジタル化で増えるのは“能力”問題より「条件の取りこぼし」

家族が一番見落としやすいのは、本人が

  • 眠い・疲れている
  • 痛い・苦しい
  • 不安が強い(決めるのが怖い)
  • 薬で眠気や注意力低下が出ている
  • 難聴で説明が入っていない
  • 周囲の空気で「うん」と言ってしまう

といった条件でも、オンラインだと“成立しているように見える”ことです。

この状態だと本人は
「任せる」「どうでもいい」「うん(同意っぽい返事)」
が増えます。

これを「同意が取れた」と受け取って進めると、後から「よく分からなかった」が出たとき、家族が詰みます。
詰むのは“内容”より、プロセスを説明できる材料が残っていないからです。


4) ケース例(匿名の典型):オンラインでスムーズ→あとで一気に燃える

※個別事案ではなく、よくある状況を一般化したものです。

【状況(典型)】
移動負担を減らすためオンライン活用。本人は画面越しに相槌が多く、短いやり取りで進む。家族は「便利で助かった」と思う。

【後から起きること】
一部の相続人が「画面の外で誘導があったのでは」「説明が届いていなかったのでは」と言い出す。
争点が“遺言の内容”から、“当日の条件・同席・確認のされ方”へ移る。

【ポイント】
デジタル化は悪ではありません。
ただ、条件設計が弱いと、疑いが育ちやすいという現実があります。


5) 家族向け:デジタル化時代の「遺言づくり」手順(揉めない順番)

Step 1:「何をデジタルにしたいのか」を分ける

  • 手続をラクにしたい(オンライン等)
  • 遺言書自体をデジタルで作りたい
  • デジタル資産を引き継ぎたい
    まずここを混ぜないことが大事です。

Step 2:方式は基本に戻る(迷ったら公正証書を軸に)

家族関係が複雑、偏りが出る、不動産がある、体調に波がある——こうした条件があるほど、一般論としては公正証書が無難になりやすいです。
(具体判断は司法書士等へ)

Step 3:オンライン活用するなら「条件」を先に決める

  • 時間帯:本人が最も安定する時間
  • 区切り:30分×複数回など短く
  • 同席:原則最小限(“画面外の同席”も含めて設計)
  • 伝達条件:補聴器、音量、画面サイズ、資料の文字、休憩
  • 体調要因:睡眠、痛み、不安、排泄、空腹
  • 薬の影響:眠気が出るタイミングを避ける等(医療判断は主治医領域)

Step 4:確認のしかたを変える(「分かった?」を減らす)

  • 「分かった?」ではなく
  • 「あなたの言葉で言うと?」で短く確認する
    オンラインほど、ここが効きます。

Step 5:デジタル資産の棚卸しを“別タスク”でやる

遺言書とは別に、家族が詰みやすいのがここです。

  • スマホのロック解除(本人の同意のもとで管理方針を決める)
  • ネット証券・銀行・暗号資産の有無
  • サブスク、携帯契約、クラウド写真
  • 連絡先、二段階認証(SMS/認証アプリ)

※「パスワードを全部書く」等は管理リスクもあるため、やり方は案件ごとに設計が必要です。


当室が担えること(家族向け)

当室では診断や治療、法律判断は行いません。
紛争予防の観点から、**「意思が表れやすい条件整理」と「面談整理(情報整理・文書化)」**を行います。

  • オンライン/対面を問わず、体調・睡眠・痛み・薬・不安、難聴などの伝達条件、同席圧を含めた“条件整理”
  • 本人の言葉が出やすい面談条件の設計(時間帯、区切り、同席設計)
  • 後から説明可能な形での面談整理(情報整理・文書化)

※具体的な遺言の方式・文案・法的手続は、司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。


まずは書面での事前スクリーニング(おすすめ)

「まず論点と条件だけ短く整理したい」という場合は、書面完結の事前スクリーニングをご利用いただけます。
(納品:A4 1〜2枚PDF/標準5営業日)

家族の方:お問い合わせ(家族)

ご相談(対面/オンライン)

当方の対応は以下のとおりです。

  • 対面:京都・大阪近辺を中心に対応
  • オンライン:全国対応(内容により)

「まだ遺言内容が固まっていない」「何が不安なのか整理できていない」という段階でも大丈夫です。状況を伺ったうえで、進め方をご提案します。


注意

本記事は一般的な情報提供であり、医療行為(診断・治療)や法律上の個別助言を行うものではありません。個別の状況により適切な対応は変わります。

著者情報

回復期病棟で高齢者・認知症診療に従事する医師。生活に直結する意思決定支援の経験を踏まえ、相続・遺言の場面で「意思が表れる条件整理」と「面談整理(紛争予防のための情報整理)」を行う。著者情報はこちら

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