家族の方へ:いま遺言・相続の準備を先延ばしにすると詰みやすい——相続登記の義務化/公正証書のデジタル化時代の「家族会議」設計

「遺言や相続の話は、いつかやればいい」
そう思っていた家庭が、最近“詰みやすい”理由があります。

  • 相続登記が義務化され、「揉めている間に放置」がやりにくくなった
  • 公正証書の作成手続が、**デジタル化(オンライン活用を含む)**へ進み、「早く作れる」一方で“疑いが育つ条件”も増えた
  • 家族の連絡・意思決定が、LINEやオンライン中心になり、同席圧/伝達条件の取りこぼしが起きやすい

結論として、いま必要なのは「早く結論を出す」ことではなく、
揉めないために、家族会議を“設計”することです。

この記事では家族の方向けに、時事(制度変更・デジタル化)を踏まえつつ、遺言の前段としての「家族会議」を失敗しにくい形で進める手順を一般論でまとめます。


担当医師について(背景)

私は回復期病棟で高齢者診療・認知症診療に従事し、ご本人・ご家族を交えた意思決定支援に携わっています。

臨床では、意思決定は「能力」だけでなく、体調・疲労・睡眠、痛み、薬、不安、難聴などの伝達条件、同席者の影響といった“条件”で揺れることを前提に関わります。
相続・遺言の場面でも、条件が整わないまま「決めさせる空気」になると、本人の意思が弱く見えたり、家族の不信が増えたりしやすくなります。


1) いま“先延ばし”が危険になっている理由(時事)

相続登記の義務化で、「揉めてるから放置」が通りにくい

不動産が絡む相続は、昔から揉めポイントでした。
そこに近年、相続登記の義務化が入って、「後でやる」が現実的にきつくなっています。

揉めていると、名義変更が止まり、手続が止まり、家族のストレスが増えます。
つまり、**揉めない段取り(準備)**の価値が上がりました。

公正証書手続のデジタル化で「便利」になるほど“条件の見落とし”が増える

2025年以降、公正証書作成手続はデジタル化が進み、メールやWeb会議の活用などが話題になっています。
便利になるのは良いことですが、オンラインは

  • 画面外の同席(同席圧)
  • 音量・聞こえ(難聴)
  • その日の体調(眠気・痛み・不安)

を取りこぼしやすい。

「早く作れた」ことと「揉めない」ことは別です。


2) 先に結論:家族会議は“結論を出す会”から始めない

家族会議が荒れる最大の理由は、初回から

  • 誰に何を渡すか
  • どの方式で遺言を作るか
  • いつ公証役場に行くか

という“結論”を取りに行くことです。

最初は、結論ではなく 共有の回を1回作る。
制度が変わっても、ここが一番効きます。


3) 医師の視点:本人が「任せる/どうでもいい」になりやすい条件がある

家族会議で本人が急に弱く見えるのは、能力だけが原因ではありません。

  • 眠い・疲れている
  • 痛い・苦しい
  • 不安が強い(決めるのが怖い)
  • 難聴で説明が入っていない
  • 人数が多く空気で「うん」と言ってしまう(同席圧)

こういう条件だと本人は
「任せる」「どうでもいい」「うん(同意っぽい返事)」
が増えます。

この状態で“決めた”ことにすると、あとで家族の中で
「本当は理解していなかったのでは」「誘導では」
という疑いが育ちやすくなります。


4) 家族会議は2段階(必要なら3段階)に分ける

①共有回(最初の1回はこれだけでOK)

目的:争点を減らすための土台作り

  • いまの状況(介護、通院、生活)
  • 困りごと(不動産、預金、疎遠な親族など)
  • 価値観の方向性(“公平”をどう考えるか)
  • 今日決めないことも決める(例:配分の結論は次回)

禁止事項:
配分の結論を出そうとしない/過去の責任追及をしない

②整理回(情報を見える化する回)

目的:揉めポイントの特定

  • 相続人の範囲(ざっくり)
  • 財産の棚卸し(ざっくり)
  • 火種(不動産、同居、借金、事業、名義の不一致)

③決定回(必要なときだけ)

ここで初めて、専門家(司法書士等)と一緒に方式・文案・段取りへ。


5) “デジタル時代の家族会議”で増えた落とし穴(時事ポイント)

最近増えたのがこの3つです。

  • LINEで決めたつもり:言った言わない、温度差が残る
  • オンラインで全員参加:人数が増え、同席圧が強まる(本人が「うん」になりやすい)
  • デジタル資産(スマホ・サブスク・ネット口座)で死後に詰む
    → 遺言の話と混ぜると爆発しやすいので、別タスクで棚卸し推奨

6) 家族向けチェックリスト(共有回の前に)

  •  今日の目的は「決める」ではなく「共有」と言える
  •  今日決めないことを決めた(配分結論は次回など)
  •  時間帯は本人が安定しやすい(午前など)
  •  人数を絞った(同席圧を下げた)
  •  要点を紙に書く(言った言わない対策)
  •  不動産があるなら、相続登記の義務化も見据えて“放置しない段取り”にする

当室が担えること(家族向け)

当室では診断や治療、法律判断は行いません。
紛争予防の観点から、**「意思が表れやすい条件整理」と「面談整理(情報整理・文書化)」**を行います。

  • 体調・睡眠・痛み・薬・不安、難聴などの伝達条件、同席圧を含めた“条件整理”
  • 本人の言葉が出やすい面談条件の設計(時間帯、区切り、同席設計)
  • 後から説明可能な形での面談整理(情報整理・文書化)

まずは書面での事前スクリーニング(おすすめ)

「まず論点と条件だけ短く整理したい」という場合は、書面完結の事前スクリーニングをご利用いただけます。
(納品:A4 1〜2枚PDF/標準5営業日)

家族の方:お問い合わせ(家族)

ご相談(対面/オンライン)

当方の対応は以下のとおりです。

  • 対面:京都・大阪近辺を中心に対応
  • オンライン:全国対応(内容により)

「まだ遺言内容が固まっていない」「何が不安なのか整理できていない」という段階でも大丈夫です。状況を伺ったうえで、進め方をご提案します。


注意

本記事は一般的な情報提供であり、医療行為(診断・治療)や法律上の個別助言を行うものではありません。個別の状況により適切な対応は変わります。

著者情報

回復期病棟で高齢者・認知症診療に従事する医師。生活に直結する意思決定支援の経験を踏まえ、相続・遺言の場面で「意思が表れる条件整理」と「面談整理(紛争予防のための情報整理)」を行う。著者情報はこちら

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